ゴルフポケットから2022年4月12日発売の「MUQU ZERO PUTTER」。それは“究極のシンプル”を目指して、機械加工の匠、クラブデザイナー、プロゴルファーらがその能力と知恵を結集してつくった超精密機械加工削り出しパターだ。「ZERO」はいかにして生まれてきたのか、4週にわたってその制作背景をレポート。その第2回目は、いよいよパター制作作業に突入していく。
パターの「究極のシンプル」をつくりたい!
パターの「究極のシンプル」を目指してはじまった“MUQU ZERO PUTTER”プロジェクト。それは、過去ブレードパターの名器中の名器と呼ばれるものを3Dスキャンして数値に置き換え、その平均値から1本のまったく新しいパターを導き出そうという試み。
名器たちを重ね合わせたときに浮かび上がるひとつのカタチ。それこそが「究極のシンプル」と呼ぶべきものではないか──それが発想の出発点だ。
「名器」を選定したのはパター博士の異名を誇るプロゴルファー・早川佳智。ブレードパターの黎明期から現代に至るまで、無数に制作されてきたパターのなかから「これだけは外せない」という歴史的名器だけを選び抜いた。
すでにあるプロダクトを分解・解析し、新たなプロダクトを開発することをモノ作りの世界ではリバースエンジニアリングと呼ぶ。やろうとしているのは、いわば名器のリバースエンジニアリングだ。早川は言う。
「ブレードパターはその誕生から今に至るまで、少しずつ大きく、重くなっています。また、1960年代には角の丸い形状が一般的でしたが、現在ではより角張った形状のブレードパターが増えています。それら時代によって異なる名器を重ね合わせたときどんな新しいパターが生まれてくるのか。それは正直、僕にもわかりません」
すでに歴史の審判を終え、「名器」の名を後世に残す歴史的パター群は、こうして超精密機械加工メーカーのエムエス製作所へと送られた。次はこれらのパターを3Dスキャンする工程だ。
名器を3Dスキャン。人の手で輪郭を描き出す
3Dスキャンとは一体どのような作業なのだろうか。同社と組んで「MUQU」シリーズのアイアン、ウェッジを世に送り出してきたクラブデザイナー・鈴木育生は言う。
「3Dスキャンをわかりやすく説明すれば、物体を“点”の集合に置き換える作業です。私も最初は機械にモノを入れれば自動的に形状が複製されるのかと思ったのですが、そうではなく、無数に得られる点をつないで線にし、さらに面にしていくのはエンジニアの手作業で行います。スキャンデータを元に実際のパターのカタチをPC上に再現することをモデリングと言いますが、この作業は誰にでもできることではありません」(鈴木)
熟練したエンジニアが1日かかりきりでひとつ完成させられない。3Dスキャンからのモデリングには、それくらいの作業コストがかかる。
この作業を担当したのはエムエス製作所のエンジニアの東幸秀。モニタ上に浮かび上がった“点”をひとつずつクリックして線にし、やがて面にしていく。そして、ロフト、ライ角、フェース長、トップブレードの厚み、キャビティの深さ、フェースプログレッション、シャフトを差す角度、角の丸み……名器たちの形状を数値に置き換え、その平均値から新たな形状を描き出す。
名器たちの平均値。究極のシンプル=ZERO PUTTERの姿がモニタ上に浮かび上がってくる。それは、驚くべきものだった。
ブレードパターには、早川も指摘したように丸みを帯びた形状と角張った形状があるが、名器たちのデータから導き出された形状はその融合形。曲線と直線が違和感なく同居し、丸みを帯びた優美さと、直線的なシャープさの両特徴を併せ持つ、シンプルかつ唯一無二の形状となった。
重心、形状……見えてきた「名器の条件」
そして、解析の結果、鈴木を驚かせたのは、名器の“共通点”だ。
「名器の解析データからは、『この線とこの線は平行でなければならない』『この線とこの線は垂直に交わらなければならない』という不文律が見えてきました。いわば『名器の条件』というべきものがあることがわかったんです」
ブレードパターは数多くの線で輪郭が構成されている。その線のひとつひとつが構えやすさ、狙いやすさ、ストロークのしやすさに関わっている。そこには知られざるルールがいくつかあるというわけだ。
「名器たちは大きさも重さも違う。しかし、重心の位置はほぼ同じところにきていました。これも、外せない名器の条件だと思います。ほかの『条件』もあるのですが……ごめんなさいナイショにさせてください」(鈴木)
ほんの少しだけヒントを言えば、名器と呼ばれるパターの重心位置はフェースセンターには「ない」。芯でヒットするためには、フェースセンターではない位置のほうが打ちやすくなっているのだ。
これら数多く発見された“名器の条件”を満たし、曲線と直線が調和した形状。
「誰も見たことがないパターだと思います」
東が作成した設計データを元に、エムエス製作所の3Dプリンタで製作されたモック(模型)を眺めながら、鈴木はそうつぶやいた。東は純粋なエンジニアで、クラブ設計家ではない。しかし、そんな彼が生み出したのは名器のエッセンスだけで構成された究極のシンプルと呼ぶにふさわしいものだった。
こうして究極のシンプルを目指すZERO PUTTERの輪郭は定まった。それは今から半年ほど前、2021年10月のことであった。次週、いよいよZERO PUTTERがその全貌を現す。
< #3に続く>
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